カインは言わなかった(芦沢央:2019年8月)
クラシックバレエを題材にしたミステリ作品
芸術を追い求める人たちの「そこまでやるか?」な行動。
まさに狂おしほどに選ばれたい、ですね。
はじめにまとめ
・のっけから殺人シーン。しかし犯人も被害者も最後まで分からないミステリ
・”表現者”としてのエグイ心理描写がみどころ
・クラシックバレエの演目について少しだけ詳しくなれるかも
ミステリ:
バレエの演目「カイン」の主役に選ばれた藤谷誠。しかし
「カインには出られない」と彼女に連絡をよこし失踪してしまう。一体どこに?
冒頭の殺人シーン、犯人は誠だったのか、それとも彼が被害者なのか。
誠には「豪」という画家の弟がいる。奇しくも「カイン」は弟殺しの作品だ。
表現者:
クラシックバレエ団「HHカンパニー」の代表者、誉田。
あ~わかる、鬼監督って絶対こんな感じだわ、ってのがよく伝わる。
最低限の言葉数での指導。自分なりに頭をフル回転させて
「多分こうかな」って演技する。そしたら「違う」って一蹴。
中身入りのペットボトルを投げつけられる。冷や汗ダラダラ、胃がキリキリ…
表現者とはここまでエグくストイックなのか。
この作品では三つの演目が登場します。
カイン:初めて人間が人間を殺したエピソードとして旧約聖書に登場。
神に選んでもらえなかった絶望、嫉妬。兄による弟殺し。
ジゼル:恋人には愛人がいたことが発覚して悲嘆の末に妖精に転生してしまった娘
男を死の舞踏に誘う。この作品では性別が逆転されている。
オルフェウス:妻を亡くした夫が冥界に赴き、妻を連れて帰る。帰途の途中、
「絶対に振り返ってはならない」という禁忌を犯してしまう。
先ず「芸」に身をやつす男が3人。誉田監督と藤谷兄弟。彼らに恋人や団員が振り回される形で話は展開する。正直、あまり感情移入はできない。
しかし表現者というのは、やはり「芸」に一生を捧げているわけで、普通の人生を歩むことを選んだ一般読者が感情を推し量ろうとするのは、土台無理な話なのかもしれない。
表現者としての覚悟、そして表現者の上には”評価者”がでんと鎮座している事がまざまざとわかる作品でした。
おわり